彼らが開く音楽のコンテストなら面白い。晴天の下、挑戦者は向こうにそびえる山々に向かって音楽を奏でます。技術や技量を競うのではありません。音楽を判断するのは人間ではないからです。判定は、山がくだします。これが中々に手強い。挑戦者は思いの丈、生きる力を振り絞って、音を奏でますが、山は、うんともすんとも言いません。いよいよ、少年の番が回ってきました。彼の中には、深い悲しみがありました。「あなたは私にたくさんの命を与えます。私はもらうばかりで、与えるものが何もない。せめて、この身体を与えたい、とも思いますが、私の命は生きろと言います。せめて、あなたを楽しませたい。どうか、聞いてやって下さい。」少年は、山が楽しんでくれることを想い、唄が身体から溢れ出しました。永遠とも一瞬とも思える時間が流れました。辺りが静まり返った頃、山が、山々が、ろうろうとした、素敵な調べを少年に送り返しました。集まった人々は、その年のチャンピオンになった少年と共に、夜が明けるまで祝い続けました。
高木正勝