2008年初頭、高木正勝の2年振りの単独コンサートをめぐろパーシモンホールで開催することが決まりました。
一般的には、新作のCDを出してからコンサートを行なうのだと思いますが、高木の場合は逆の形を取ります。コンサートのために新作を作り、そこで録音したものをCDとして発売する、前回の「Private / Public」の時からのやり方です。
ですから、コンサートの開催が決まった時点では、まだ内容は全くの白紙です。そこから、コンサート全体のテーマ、ミュージシャンの編成、曲や映像の内容、舞台演出などを考え始めます。
まずは、コンサートのタイトルから。いくつか出された候補の中から、最終的に残ったものが、「Tai Rei Tei Rio(タイ・レイ・タイ・リオ)」でした。
日本民族のルーツの一つと言われるポリネシア地方の言葉で、「大きく振れ、小さく振れ」を意味します。「波」を指すこともあるでしょうし、ブランコのようなものが揺れている様子も想像できます。日本のお祭りの掛け声に「祭礼祭領(さいれいさいりょう)」という「音」として残っているこの言葉が、今回のプロジェクト全体を動かすきっかけとなっていきます。
「聞かせよう」という意図的なものではなく、普段音楽を作っているときの、純粋に音が音楽になる瞬間をコンサートで再現できないか、という「Private / Public」から引き継いでいるテーマがあり、さらにそこに「今、ここ」、この時代の日本で自分たちにとってリアリティのある音楽とはどんなものだろうか、太古から受け継がれているはずの自分たちの民族音楽の流れに触れたい、そんなテーマを軸に、まだ漠然とした中プロジェクトはスタートしました。
2008年10月のめぐろパーシモンホールでのコンサートが無事終わり、幸い12月に盛岡県立美術館でも同じメンバーでコンサートを開催することができました。それらの録音音源をCDにするべく、高木がミックスに取りかかりました。5ヶ月近くに及ぶ長い時間をかけて、丁寧に、妥協せず、音を仕上げていきました。その途中のことです。
「『ヒトが初めて音楽を奏でた時』に思いを馳せながら作り、演奏した今回の音は、人類が世界中で大切に育んできた「神話の世界」ととてもよく呼応する。CDに神話集を付けたい」、自身も今回のプロジェクトのためにたくさんの神話を読んでいた高木からの提案がありました。こちらも、人類学者の石倉敏明さん(多摩美術大学芸術人類学研究所)がお引き受け下さり、高木が出した各楽曲のテーマやキーワードに沿って、世界中の神話や民話を収集して下さったのです。
出演者が決まり、新曲も徐々に完成し、コンサートの形が見え始めた頃、せっかくだからきちんと映像で記録しようということになりました。当初は、後々コンサートDVDを出すくらいの考えでしたが、家庭のTVモニターではなく大きなスクリーンときちんとした音環境でお見せしたいということで、映画館での上映が決まりました。その時点から、「ライブ映像記録」が「ドキュメンタリー映画」制作へと変わっていったのです。自主映画制作やCM演出で活躍中の若手映像ディレクター友久陽志さんが、その監督を快諾して下さり、撮影がスタートしました。
映像作家でもある高木正勝は、コンサートでは音楽を演奏すると同時に、映像作品がスクリーンに映し出されます。残念ながら、DVDなどで発売されている作品は少ないので、それらの作品が見られる機会はごく限られています。そこで、特に今回のテーマに関連する最近の作品の静止画像で綴るミニ・ビジュアルブックを制作することになり、コンサート会場で発売を開始しました。
何とも不思議なプロジェクトです。コンサートを発端に、次々と別の形や媒体を使い、たくさんの人や組織を巻き込みながら、こちらが予想もしていなかった方向へと発展していき、今もその途上にあります。まるでプロジェクト自体が意志を持って動いているかのようです。
これからもプロジェクトの成り行きを、このサイトを通じて随時お伝えしていきたいと思います。