CDについて
これで通算11枚目のアルバムになるようです。これだけ人に聴いてもらうのに躊躇いがあるCDは、2001年に出した処女作「pia」以来です。自分にしか分からない内容ではないか、そう思ってしまいます。そういう意味では、ようやく自分にとっての2枚目のアルバムが作れたのかも知れません。
「Tai Rei Tei Rio」は、2008年10月東京、12月岩手のコンサートでの演奏をまとめたものです。舞台では10名が各々の楽器を演奏しましたが、生演奏の小さな音を広い会場に響かせるのは難しい。客席にきちんと届くように、マイクで音をひろいスピーカーから鳴らして補強しました。CDに入っているのは、そのマイクが拾った音を、改めて自宅のスタジオで整えた音です。マイクの数は30本以上。10月東京公演は、ゲネプロと呼ばれる本番直前の通し稽古の演奏も録音してもらったので、計4公演の演奏記録がありました。どの回の演奏を選ぶか、というだけでも相当に悩みました。全く別の良さがそれぞれにありました。何をもって「音楽」とするのか、真剣に悩むと分からなくなるものです。結果、半年掛かりの気の遠くなるような作業になりました。
コンサートに来て下さった方には分かって頂けると思いますが、どれだけ精巧に録音して音を整えても、あの場そのものを過不足なくCDに収めるのは不可能です。会場があり、照明、映像、演奏者で彩られた空間があったのはもちろん、音と観客が共鳴した様までをCDで再現するのは困難どころか不可能に思われました。それに僕自身はピアノを演奏していたので、ピアノを弾きながら聞いていた音しか知りません。
おそらく、このCDから流れる「音の感覚」というのは、コンサートに来て下さった観客の記憶とも、演奏者それぞれの記憶とも違っていると思います。そして、実は僕があの場で演奏しながら聴いていた印象とも違います。はじめは、自分が聴いていた通りの音に仕上げようと躍起になっていましたが、あらゆる手を尽くしても音が爆発してしまうだけで、とても聴けたものには仕上がりませんでした。そこで、やり方を変え、(演奏中がそうであったように)私心を捨て、一つ一つの音が出てきた元の場所を紡いでいくようなイメージで音を整える事にしました。元の場所と言っても、演奏者という意味ではありません。誤解を恐れずに言うと、演奏者の後ろにある大きな源。空想と言ってしまえばそれまでですが、そんな不思議な場を確かめながら、そこと音をきちんと紡いでいくような、そんな作業を繰り返しました。曲の意志が曲そのものを作り上げていく、それをただ助ける、そういう不思議な作業でした。エジプトの魔術師の言葉に『魔術をおこなうのは私ではなく、再現するのも私でない』とありますが、出来上がったCDを改めて聴き直すと、タイ・レイ・タイ・リオとは、そのようなものであったと痛感しています。
音量は市販されている他のCDと比べると非常に小さいです。いつも通り音量を上げようとも考えましたが、CDが持っている音空間には限りがあって、音量を突っ込むと空間が埋まってしまい、空気感がどんどん削られていきます。あの手この手を尽くした挙げ句、今回は家で仕上げたままの音で世に出す事にしました。この決断にも長い時間が掛かりました。普段の音量で聴くと物足りないと思われますので、是非、音量をあげて聴いて下さい。