国際北陸工芸サミット 工芸ハッカソン(2017年)
アート×伝統産業×先端技術。「工芸の未来」を提案する、異色のハッカソン!
グローバル資本主義経済、ライフスタイルの変化、後継者不足—。さまざまな困難に直面する日本の工芸。手仕事の「保存」ではなく、活きた産業や文化として未来につないでいくにはどうしたらよいか?その問いの答えを探るべく、2017年秋、「国際北陸工芸サミット」の一環として、伝統産業の職人や工芸作家と、エンジニア、研究者、アーティストなどこれまで工芸があまり出会ったことのない多様なジャンルの専門家がチームを組み、工芸の未来を提示する「工芸ハッカソン」を開催しました。
背景
弊社が拠点を置く富山県高岡市は、人口約17万人の富山県西部の中心都市で、約400年前に加賀藩二代当主・前田利長公によって開かれました。利長公が高岡に城下町をつくる際、腕ききの鋳物師を呼び寄せるなどしてものづくりを奨励したため、高岡銅器、高岡漆器などの伝統産業に始まり、現在ではアルミなどの新産業も盛んな、日本海沿岸を代表する「ものづくりのまち」です。
とは言え、他の工芸産地同様、後継者不足やライフスタイルの変化など、高岡の伝統産業も危機に直面しています。そんな中、デザイナーと組んでの新しいプロダクト開発、これまではクローズドだった工房を開いての工場見学ツアーなど、近年、若手の職人さんたちを中心に様々なチャレンジが行われています。
「手仕事」と工業製品は何が違うのか?残すべき技とそうでない技はあるのか?私たちには答えはわかりませんが、高岡の職人さんたちの技や熱い想い、彼らが作るものに心を動かされます。そのような「もの」と暮らしたいと思いますし、失いたくないと思います。「先祖から受け継いできた技を未来につなごう」と奮闘する職人さんたちとご一緒しながら、私たちにも何かできないかと考えました。
そこで、これまで工芸が出会ったことのない異分野、特に先端テクノロジーと掛け合わせ、未来につながるアウトプットを創出してはどうかと考えました。その際、特定の職人さんとエンジニアをこちらでマッチングするのではなく、「ハッカソン(※)」の手法を取り入れることで、こちらの予想を超える化学反応が起こることを期待したのと、広く参加者を募ることで高岡の伝統産業のPRにもつなげようと考え、参加型イベント「工芸ハッカソン」を企画しました。
アウトプットとして想定したのは、必ずしも「プロダクト」だけでなく、「アート作品」や「サービス、システム、アプリ」など形のないものも。高岡の伝統産業の活性化はもちろんですが、手仕事と先端テクノロジーという、いずれも日本の得意分野が掛け合わされることで、日本発のイノベーションが創出できないかとの思いもありました。
*ハッカソン(hackathon)
一般的に、ソフトウエア開発者が短期間にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を集中的に行い、その技能やアイデアを競う催しで、「ハッキング(既成概念を壊す)」と「マラソン」を組み合わせた造語。フェイスブックの「いいね!」やSNSにおける「チャット」「タイムライン」などの機能は、ハッカソンからアイデアが生まれたものとして知られていて、予測を超えた成果を生み出す手法のひとつとなっています。
実施内容
北陸の工芸の魅力を世界に発信するために初めて富山県で開催が決まった「国際北陸工芸サミット」〔コア開催期間:2017年11月16日(木)~11月23日(木・祝)〕の関連事業として開催。定員30名を大きく超える142名の方にご応募いただき、最終的に37名の方にご参加いただきました。前半は、高岡市の伝統産業見学ツアーに始まり、ディスカッションやアイデア提案を経てチームビルディング。7つのチームができました。
ハッカソンは通常2〜3日の短期間で終了しますが、今回は伝統工芸という制作に手間と時間がかかるもののため、発表までの間に時間を取り、チームはオンライン・オフラインでコミュニケーションを取り合いながら、アイデアをまとめていき、プロトタイプ制作をしていきました。事務局として、この間の各チームのやり取りを拝見していましたが、人工知能やAR・VR、ロボティクスや新素材の研究者など、一見かけ離れているような分野の皆さんがとても伝統工芸に興味があり、その継承に寄与したいと強く思われていることがわかりました。また、ある意味まったく違う言語を話すような彼らに、地元の職人さんたちも大いに刺激を受けていました。そして両者のやり取りをまとめていくクリエイティブ・ディレクターやデザイナー、アーティストの方達がいて、時に迷路にはまり込みながらも、各チームのアイデアがどんどん深まり、形になっていく様は驚くべきものでした。
後半、再び高岡に集まっていただき、制作の仕上げ、公開プレゼンテーションを行い、最優秀賞などを決定していきました。
IOTプロダクト、AIと職人のコラボ、伝統技術を継承するためのテクノロジーの活用、伝統工芸を使ったアート・インスタレーション、と今回の「工芸ハッカソン」から生まれたプロジェクトは、いずれもワクワクするものばかり。この「種」をなんとか芽吹かせられないか、各チームも活動を継続していますが(→「工芸ハッカソン2018」に続く)、ご協力いただける方やビジネス化に向けての出資者など募集しております!
開催概要
- 開催日
- DAY1・DAY2:2017年9月23日(土)・24日(日)
DAY3・DAY4:2017年11月18日(土)・19日(日) - 開催地
- 富山県高岡市
- 定員
- 30名
- 対象者
- 富山県内の職人や工芸作家および国内のアーティスト(美術・音楽・写真・映像・ダンス等)、エンジニア、プログラマー、科学者・研究者(人工知能・情報技術・ロボット・新素材等) など
- 参加費
- 無料
- 応募方法
- 一般公募
- 賞・特典
- 1最優秀賞[1組]30万円、特別賞[1組]10 万円
2巡回展示:高岡市・富山市・魚津市(2018年1月~2月)
- 主催
- 富山県
- 共催
- 高岡市
- 協力
- 富山県総合デザインセンター、高岡市デザイン・工芸センター、高岡市クラフト市場街実行委員会、高岡銅器団地協同組合
- 宷査員
- 石橋素(エンジニア/アーティスト ライゾマティクス取締役)、林千晶(ロフトワーク共同創業者、代表取締役)、菱川勢一(映像作家/写真家/演出家 武蔵野美術大学教授)、高川昭良(高岡市デザイン・工芸センター所長)、高橋正樹(高岡市長)、武山良三(富山大学芸術文化学部 学部長)
- アドバイザー
- ヴォロシティ(株)代表取締役社長 青木竜太
実績
- 参加者
- 37名(応募者は142名)
富山県内の職人や工芸作家、アーティスト(美術・音楽・映像・ファッション)、エンジニア、プログラマー、科学者・研究者(人工知能・情報技術・ロボット・新素材) - 成立プロジェクト
- 1.「素材調」
金属という「素材」に注目し、新しい打楽器を制作。
2.「9+1(ナインプラスワン)」日本の美意識をベースに、工芸と先端テクノロジーを融合(=「CRAFTECH(クラフテック)」)し、アート作品を制作。
3.「伝統技術の継承」
動画解析・分析による伝統の技の継承システムを構築。
4.「Re工芸」
「予期せぬ答えを返す隣人」としてのAIとの共創による、誰もみたことのない工芸を制作する実験。
5.「つくるラボTakaoka」
伝統工芸×IoT。大切な人に想いを届ける「eoRin(いーおりん)」を開発。
6.「Metal Research Lab」
金属と作り手との間にコンピュータ技術を介在させる新しい表現の探求。
7.「トントントヤマ」
製造過程にユーザーが参加する体験型プロダクト&サービスを開発。
※各チームは、その後も引き続き活動を行っており、2018年もプロジェクトが継続することになりました!詳細は「工芸ハッカソン(2018年)」参照。 - メディア露出
- 101件、広報換算額約1,720万円